2013.05.13

パイロット版PV03に続いてパイロット版PV07でも宮本さんを起用した経緯を教えてください。

シャフト岡田(制作プロデューサー、敬称略、以下同):制作順でいえばパイロット版PV07の方が先に動いていたんです。7本の中でも最初にスタートしたのがパイロット版PV07でした。パイロット版PV07は楽曲を聴いたときに、テレビアニメのエンディング的な印象が強くて、これならストレートにわかりやすいパイロット版PVが作れるだろうと判断しました。宮本さんとは長く一緒に仕事をしてきて信頼関係もあったし、今回の話を持っていったときに快く引き受けていただいたのが一番ですね。パイロット版PV7本のうち、1本は名刺代わりというか、しっかり世界観を作り込んだものを作ろうと思っていて、その一番大変なところをお任せできるのは宮本さんしか考えられませんでした。他のパイロット版PV6本の指標になって、世界観も表現するっていうところを期待したんです。パイロット版PV07がスタートした時点ではデザインも設定もほとんどなかったですよね。
宮本(パイロット版PV07ディレクター、敬称略、以下同):なんか絵があった気がします。
シャフト岡田: 美術設定かな。
宮本: 美術設定じゃないですけど、写真の資料でした。空中都市みたいなのがあった気がします。
シャフト岡田: 世界観の資料だ。色がついてないやつですよね。
宮本: それかな。パイロット版PV07には関係ないよね、なんて言ってました。
シャフト岡田: シャフト社内の絵コンテマンにパイロット版PV03もやってもらった佐々木満さんという人がいるのですが、宮本さんと佐々木さんにまとめてもらったって感じですね。でもパイロット版PV07は納品も一番早かったんですよね。
宮本: はい(笑)
シャフト岡田: 7本のパイロット版PVを同時に進めるというのは制作現場としてはとても苦しい状況だったんですけど、パイロット版PV07が最初に完成してからは、本数が減った以上に、パイロット版PV07を観ながら他のパイロット版PVの作業を進められるようになったのが大きかったです。

でも先頭を走ったパイロット版PV07の苦労は大きかったんじゃないですか?

宮本: はっはっは(笑)
シャフト岡田: 苦労しましたよね。非常に大変だっただろうなと思います。あの頃は何をやってたっけ?えーと、テレビアニメを何本かと3Dアニメをやってましたね。仕事が色々と重なった頃でした。確かあのとき一番空いてたのが僕でしたね。色々やってたけどシャフト社内はもっと忙しかったんです。

では、パイロット版PV07についてのやりとりで印象に残ってることはありますか?

シャフト岡田: 先ほども話しましたが宮本さんとはかなり長くて信頼が深いので、暗黙の了解で物事が動くんです。宮本さんはどう思ってるのかわからないけど(笑)
宮本: 僕もそれで大丈夫だと思ってますよ。
シャフト岡田: 信頼がある中でやっていたので、やりとりはあまり記憶にないですね。サビからラストまでの一連のシーンを丁寧にやりましょうか、ぐらいですよね。
宮本: それぐらいですね。
シャフト岡田: テイク1があがってきた際に、ちょっとここが苦しい、みたいな話し合いをして、作画のクオリティをブラッシュアップしていきました。あとは世界観の打ち合わせを何回かやりました。パイロット版PV07でしっかり見せたいというのがあったので。

魔法少女もののエンディングということで、イメージした作品はありましたか?

シャフト岡田: 特に映像を見せて、これを指針に、みたいなことはしなかったですね。これが始まった頃にシャフトで同系列の作品をやっていたので、それを避けようってことぐらいです。
宮本: 何かを判断するときも、あの作品とかぶるからやめよう、みたいな感じでした。でもかぶるんだろうなーって思いながら。
シャフト岡田: パイロット版PV07はまとめ方としては正統派というか、ギミックも最小限で、ストレートに音楽と映像をシンクロさせて作るってところを徹底しています。雑味や遊びみたいなものは入れませんでした。
宮本: パイロット版PV07は最初に動き出してスケジュールがあった方だったので、ちゃんと考えようって意識でしたね。

パイロット版PV07において特に意図があってお願いした制作スタッフはいましたか?

宮本: パイロット版PV07の後半の変身後に、飛鳥が矢を放って、そこから花が咲いて琴音が出てきて、ギターを振るとスケボーに乗った至が飛び出すっていうシーンがあるんですけど、そこは小島崇史さんという原画さんにお願いしました。
シャフト岡田: その後のシーンが田中宏紀さんですね。
宮本: 小島さんと田中さんはとても上手いので、後半を任せるならこの2人しかいないって感じでした。これは先にスタッフが決まっていて、どこを誰にお願いするかっていう話ですね。
シャフト岡田: 絵コンテがあがってきて、だいたい動きと内容が見えてきたところで、スタッフをどう配置するかっていう打ち合わせをするんですけど、その時に出てきたお名前ですね。パイロット版PV07は小島さんと田中さんという非常に高い技術を持ったスタッフさんに協力していただけました。
宮本: 小島さんに関しては、小島さんがこのシーンを希望していたような気もしますね。瓶の蓋を開けるところまでが小島さんだったかな。ストップモーションで2カットに分かれてるところですね。
シャフト岡田: いや、ここは田中さんじゃないかな。
宮本: もう記憶が曖昧で(笑)あと、パイロット版PV07の前半にも上手い方にやっていただけました。
シャフト岡田: 大梶博之さんですね。
宮本: 大梶さんには美術設定も込みで起こしてもらってますね。街の全景とかがそうです。このアーチ状のものとかが大梶さんですね。

パイロット版PV07を制作する過程で、スタッフ間の印象的なやりとりはありましたか?

宮本: 確か指針がなかったから、「いいからでっち上げろ」って言ってました(笑)「かっこ良くしておけばいいんじゃないかな」とも言ってた記憶がある。あと夜中だから撮影所の光が乗りやすくて「ごまかし効くからオッケー」って。
シャフト岡田: 宮本さんも大変だったと思いますが、やっぱり映像の流れを作る絵コンテの打ち合わせからすべてがスタートしているので、佐々木さんの力に依るところも大きかったと思いますね。絵コンテの打ち合わせが印象深いです。さあ、どうしようかって。

いざ作る時のイメージはどのように構築されていくのでしょうか。

シャフト岡田: 音楽を聴いて、プロットをいただいて、どうやって映像にしていくか、どういう技術を使うのか、どんな仕草をするのかって決め込んでいくんです。ボイスもない中、どういう表情をするのか、考えますね。
宮本: キャラクターの性格もわからないですからね。
シャフト岡田: 何もわからない中で、至だったらこう、飛鳥だったらこうする、ってところをまず決めていきました。琴音は妹系、飛鳥はお姉さん系、至はちょっと天然系ってところから話し合いが膨らんでいって、それを絵コンテ上で表現しましょうっていう打ち合わせがスタートでしたね。
宮本: そういえば絵コンテが最初に出た時点で、1回リテイクを出してますね。カット数をもっと増やしてってリテイクした記憶があります。
シャフト岡田: カット数が増えると作業量が増えるので、大変にはなるのですが、そこは映像の流れを重視した宮本さんの判断の鋭さですよね。
宮本: 楽曲の流れが速いので、カット数を増やした方がよく見えると思ったんです。佐々木さんはスケジュール通りにあげてくる方なので、リテイク期間を設けて、時間をかけてもらいました。

パイロット版PV07の見どころはスピード感ですか?

宮本: 他のパイロット版PVもけっこう速いので、あまりウリにはならないかもしれないですね。
シャフト岡田: パイロット版PV07は非常に余韻が残る楽曲を使っているので、映像もかなり余韻が残る作りになってると思います。サビ前で問題が発生して、サビで解決して、最後は曲に合わせて流れていく感じです。楽曲の印象をストレートに表現しているので、そこを観てください。特にここを強調して、っていうのはなくて、全体を観てもらえるのが一番嬉しいですね。
宮本: 映像内のストーリーも観て欲しいですね。絵コンテの佐々木さんが、ストーリー仕立ての映像にするのがお好きなんですよ。パイロット版PV03も飛鳥が魔法少女になるまでの話みたいになってましたが、ストーリーやテーマを立てて絵コンテを書くのが好きみたいですね。それがいい方向に乗っかってると思います。
シャフト岡田: あとシャフトはすぐに新しいことをやりたくなる会社で、特にエンディングは何も決まりがないので、シャフトがやらかしがちなのですが(笑)パイロット版PV07は余計なギミックがなくて、名刺代わりにストレートに作ったので、スタッフ内の評判もいいんです。楽曲を大事にしたのが、いい方にでました。
宮本: いい楽曲をいただいたので、この曲に追いつけ追い越せでがんばった感じです。
シャフト岡田: 最初に納品されたパイロット版PV07のクオリティが高かったので、他のパイロット版PVのハードルがぐんと上がった感じもありましたね。
宮本: アニメ業界では、楽曲からくる印象が映像に出ることが多いんです。パイロット版PV07も楽曲に引っ張られた感じがあります。ぜひ曲と映像を楽しんでください。

PROFILE
宮本 幸裕 (演出)
多くのシャフト作品で演出を担当
「劇場版 魔法少女まどか☆マギカ」前後編では監督も務める

岡田 康弘 (制作プロデューサー)
シャフト所属