2013.03.05

URAさんはゲームのオープニング映像を制作している方とうかがいましたが、なぜURAさんにパイロット版PV05のディレクターをお願いすることになったのでしょうか。

シャフト岡田(制作プロデューサー、敬称略、以下同): 今回は7本のパイロット版PVを作るにあたって、1本1本に個性をつけたいと考えていたので、スタッフの配置に非常に気を遣いました。その中で変化をつけるためにもアニメ業界以外からいい化学変化を起こしてもらいたいと思っていたんです。シャフト作品に関わったスタッフさんの中で、ゲームの仕事を手がけている方がいらっしゃって、その方と一緒に仕事をしていたのがURAさんでした。最初にURAさんの映像作品を見たときに、これはもらったなと思いましたね(笑)まさにアニメ業界にはない見せ方をしていて、スタイリッシュで色使いが斬新に映りました。URAさんにセルの素材をお渡しすれば、化学変化が起こるだろうという確信がありましたよ。
URA(パイロット版PV05ディレクター、敬称略、以下同): 最初に喫茶店で打ち合わせをしたんですよね。
岡田: もう1年以上前ですね。最初の打ち合わせで今回の企画を説明して、快く引き受けていただいたので非常にありがたかったです。

狙い通りの化学変化は起きたんでしょうか?

岡田: アニメ業界のやり方だと絵コンテがあがった段階でだいたい映像は見えてくるんですけど、URAさんにお願いした分は最後まで映像の完成形が見えなくて、ドキドキしながら待ってました。URAさんから映像が届いたときには「うおー!」という感じに興奮したのを覚えてますね。PVごとに特色を出そうとしたところから出発して、その発想がなかったらURAさんとも巡り合わなかったかもしれないですね。
URA: まさに化学変化ですよね。
岡田: アニメの素材を使って、本当にプロモーション映像になってると思うんですよ。アニメ業界ではカットとカットの中間に一味加えようという発想があまりなくて、単純にカットとカットを繋いで見せる事が多いのですが、URAさんはカットを繋ぐ撮影の工程も同時にお願いしたので、かなり見え方の違う映像にしていただきました。
URA: 撮影セクションという概念は、今回の仕事で覚えました(笑)そういう工程があることは理解していたんですけど、言葉を知りましたね。
岡田: アニメ業界はたくさんのスタッフで作業を進めるのが普通なので、今回のパイロット版PV05ではURAさんに撮影と編集の2つの工程は絶対にお願いしたいと思っていました。編集をやってもらわないとURAさんの映像にならないので。
URA: 編集が命でしょうね。
岡田: やっぱり流れ、カットをどう見せるのかが重要になりますよね。曲のリズムに合わせて映像を動かさないと、見ていて気持ちの悪い映像になってしまいます。そこのコントロールが素晴らしかったですね。正直な話、素材をURAさんにお渡しした時点で、自分の仕事は終わったと思いました(笑)通常のアニメ業界の工程では、絵コンテが一番ぐらいに重要になるのですが、URAさんの仕事のスタンスからいうとそこが編集かなって思ったんですよね。絵コンテでカット割りを決めて流れを作っていくのが普通なんですけど、今回は絵コンテを別で用意して、URAさんには編集で自由に切り貼りしていただきました。狙い通り、非常にリズミカルな見せ方をしていただけましたね。

URAさんは、アニメ業界のお仕事というのはこれが初めてだったのでしょうか?

URA: そうですね。ゲームのオープニングでアニメカットを用意するぐらいの規模なら携わったことはありますが、全編アニメーションというのは初めてでした。ただ、止め絵を活用するリミテッドアニメーションという手法は、もともとゲームのオープニングでも多用していたので、手慣れてる部分もありましたね。
岡田: 今回は撮影と編集という工程でURAさんのエッセンスを加えていただきましたが、それ以外の工程は通常のアニメーションに準じています。当初は絵コンテからお願いするっていうお話もしてましたよね。
URA: そうでしたね。
岡田: アニメ業界の発想だと絵コンテの存在が大きいのですが、URAさんの本業のお話を聞いて「そこじゃないんだ」って事に気づいて、最終工程である撮影と編集をお任せした方がURAさんの個性が強く出ると思ってお願いしました。素材をURAさんにお渡しして、うまく料理してもらったという感じですね。

例えばパイロット版PV05冒頭の、平面の背景に対して3色のラインが立体的に動いてるような表現がURAさんの発想ということですか?

URA: そうですね。ここは扱いが抽象的な背景をいただいて、何とかするっていうシチュエーションでした。で、お日様がパンアップするところまで、パースの違う素材を一連の映像につなげました。
岡田: この線の引き方とか、色使いがURAさんの持ち味ですね。
URA: たぶん個人の感覚的な部分が一番出るのがそこなんでしょうね。基本的にはロジカルに考えて作ってるんですけど、色に関しては素の感覚が反映されやすいと思います。
岡田: 3本の矢印がメダルになって飛び散る演出なんて、通常のアニメの工程だと演出家が意図してやれる領域をオーバーしてるんですよ。だからアニメでは見られない演出なんです。
URA: 止め絵の素材をもらったので、こうするしかなかったんです。絵コンテの段階では各キャラのポージングの3枚の止め絵があって、数秒間っていう尺の中で何をしようかって考えたときに、スポットライトの動きとシンクロするように作ってみたら今のカットになりました。
岡田: やっぱり映像の繋ぎが気持ちいいんですよね。音楽がなくても曲が伝わってくるような。これはさっきも言いましたが、編集者が別にいて、演出家が細かく指示をいれても伝わりきらないレベルですよ。
URA: そうですね。これは他人への指示ではちょっとできないです。

撮影と編集を担当していて一番うまくいったシーンや見せたいシーンはどこですか?

URA: 全行程悩んで作ったので、どこって決めるのは難しいですね。やっぱり冒頭のビル3カット分を1カットに繋ぐのがしんどかったですね(笑)パースがバラバラなのに無理矢理パースを合わせつつ、ブラーをかけつつ、速度を合わせて繋いでるんです。
岡田: これを見てアニメ業界の演出家がまず一番に驚くのが、背景が手前に動いてくることですよ。背景って水平とか垂直みたいに平面的に動くもので、立体的には動かさないですよ。いきなりそこから始まるのがすごいですね。レイアウト設計っていうのは設計したまま写してくれっていうのが普通で、撮影者もあくまで平面的に動かしますからね。あと、カメラワークがけっこう細かく入っていますよね。これについて社内の仕上げとか撮影とかの部署からひっきりなしに問い合わせがありました。「どうやってるんだ」と(笑)
URA: でも大尊敬している黒澤明先生はカメラは演技するなって怒ります。
岡田: シャフトにもそれを受け継いでいるスタッフがいますよ。
URA: そうなんですね。自分の中でもカメラが演技し過ぎないようにと葛藤しながら作りました。冒頭のシーンは1点透視のパースのカットから2点透視のパースのカットに繋ぐという無理があったので、かなり強引に繋げてます。だいたいのシーンで繋げ方の実験をしてから実際に繋ぎました。繋ぐ事に非常にこだわりをもって繋ぎました。繋ぎ方の発想をコンテからいただけたことも多くて、逆さパンって描いてあったカットは、そこから連想して3カット全部繋いでみたりしました。やっぱり絵コンテは絵コンテでありがたい存在ですね。
岡田: 今回の絵コンテをやってもらったのが青山裕さんという方で、監督のURAさんの映像を全部チェックして、URAさんが料理しやすいように絵コンテをきりたいって張り切ってましたよ。
URA: そんなことがあったんですね(笑)
岡田: URAさんがやられた映像はゲームやネットで探して、とにかく全部持ってこいと(笑)その中でも「魔界天使ジブリール4」の映像が一番ショッキングだったらしいです。

逆にアニメ業界で定番の繋ぎ方というのはURAさんの中にもあるのでしょうか。

URA: どうだろう。でもアニメは見てますよ。ただ、普通の発想というのはビデオデッキを2台用意してダビング編集していくリニア編集の考え方ですよね。でもゲームの方はデジタルデータを扱うのでノンリニア編集の概念が早くから入っていたんです。そこにシンプルじゃない要素がガツンと入ってきたんじゃないかと思うんですよね。だから今でもビデオデッキ2台をガチャガチャやってたら、自分でもそんなに新しい発想は出てこなかったかもしれません。ノンリニア編集のおかげでかなり細かいところまで手を入れられるようになったので、それが大きいですね。
岡田: なるほど。
URA: 岡田さんはアニメ業界の方ですけど、ゲームのオープニングもご覧になっていたということなので、最先端の方ですよね。だからこのパイロット版PV05は、その2つのアニメーションの道が出会った交差点なのかもしれないですよ。
岡田: インターネットっていう要素も大きいですね。今回は違う畑からURAさんにお願いして化学変化を起こしましたが、こういう実験的なことを繰りかえしてオリジナリティが生まれるんじゃないかと思います。自分の仕事としてはURAさんにお願いしただけですが(笑)
URA: 僕は全尺が繋がるまで、ひたすら緊張してやってました(笑)
岡田: 最後の追い込みがすごかったですね。1〜2週間でしたっけ?
URA: それぐらいはかなり追い込んでましたね。
岡田: それまではまったく色がついてない状態でした。素材が揃うのも相当遅れたんですけどね。
URA: これはノンリニア編集の特色でもあるんですけど、作りながら全体を見直して修正することができるんですよ。シンプルなリニア編集なら頭から順番に完成していくから、ここまでできましたっていう見せ方もできるんです。でもノンリニア編集だとそこが違ってて、ある段階までくると間を繋げるだけで連鎖的にガチャンガチャンとくっついて一気に完成するんですよ。岡田さんはパイロットフィルム的なものを確認したかったと思いますが、ギリギリまではお見せすることもできないんです。
岡田: 確かにアニメだと1カットずつ撮影していくので、映像が繋がってなくても1カットずつ色がついた状態で見られるんです。それもなくて、全部繋いでもらって初めて確認したっていう流れでした。

アニメの素材というのは、セル画と背景画と音楽をお渡しするような形なんでしょうか。

URA: そうです。あと設定については先にいただいていました。
岡田: 絵コンテの青山さんはゲーム業界の方と仕事をする事を面白がってくれたので、非常にモチベーションが高かったですね。
URA: それで止め絵のカットが多かったんですね。
岡田: アニメ業界ではPVに止め絵のカットを入れるのはご法度ですからね(笑)あんなに大胆にライブシーンを止めているのは、URAさんのテイストを引き出す確信があったんでしょうね。
で見られるんです。それもなくて、全部繋いでもらって初めて確認したっていう流れでした。

URAさんのモチベーションはいかがでしたか?

URA: 最初にお話をいただいたときは是非やりたいなって思いました。断りたい理由は特になかったですね。ただ、引き受けるとプレッシャーがずっしりのしかかるんですよ。どうしようかってもやもや悩んでる期間があって。でも作ってる間は我武者羅としか言いようがないです。
岡田: 重いプレッシャーがかかるのに引き受けてくださったんですね。
URA: 自分の作品を見出していただいて、素直に嬉しかったのもありますね。アニメ業界の方なので、やっぱり裏でやってる事が見えたっていうのがさすがですよね。なかなか細かいところまで注意深く見てもらえないです。
岡田: 「魔界天使ジブリール4」の映像は見ていて気持ちがいいので衝撃的でした。
URA: それで、よくぞ裏方に声をかけていただいたっていう感じです。
岡田: あのときはURAさんに作ってもらいたい気持ちだけでしたね。本当に今回の企画にぴったりだと思ったので。やっぱり映像は第一印象を信じて、ブレちゃイカンってことですね。いろんな人間との交流を通じて今の自分がいると思っているので、そこを大切にしたいと思っています。
URA: これは自分1人の作品じゃなくて、何人ものプロの手が入っている作品なので、そういう意味でこれまでとは違う作品になっていると思いますね。そこはまさに岡田さんの狙い通りになっていると思います。

最初からパイロット版PV05を依頼されたんですか?

岡田: そういえばURAさんにお願いしたときに2曲渡しましたよね。
URA: はい。5番の曲と7番の曲を聴きました。
岡田: なぜ5番を選ばれたんですか? テンポがいいっておっしゃってた記憶はあるのですが。
URA: あー、ものすごくいろんな要因がありました。
岡田: 自分的には5番は扱いづらいと思っていたので、URAさんに拾ってもらって助かりました(笑)
URA: 7番は曲の構成がオーソドックスなんです。つまりいい曲で。でも5番はオーソドックスじゃなくて、変なんですよ(笑)だから5番の方が無茶なことをしても大丈夫だろうなって。無茶なことをするというより、無茶な結果になってしまっても吸収力があるように感じたんです。
岡田: さすがです。URAさんなら5番を拾ってくれるだろうと思っていました。
URA: そこも岡田さんの狙い通りだったんですね(笑)

PROFILE
URA (撮影、編集)
映像作家
「魔界天使ジブリール4」ほか多くのゲームのオープニング映像を手がける

岡田 康弘 (制作プロデューサー)
シャフト所属