2013.02.21

まずは三浦さんにパイロット版PV04のディレクターをお願いした経緯を教えてください。

シャフト岡田(制作プロデューサー、敬称略、以下同): 以前お仕事でご一緒させていただいたstudio-KIN代表の池添隆博さんと懇意にしていて、このPVのお話を池添さんにご相談したところ三浦さんのお名前をあげていただいたんです。同時にstudio-KINの永作友克さんともお話をさせていただいていて、同じstudio-KINの三浦さんと永作さんのタッグならやりなれていてスムーズにいくだろうということでお願いしました。
三浦(パイロット版PV04ディレクター、敬称略、以下同): シャフトさんとお仕事をさせていただくのは初めてでしたね。 あの時間内ですからね……(苦笑)。コンテもよく間に合ったなあと。

パイロット版PV04についてはどのようなオーダーがあったのでしょうか。

シャフト岡田: キャラクター原案だけが完成していて、世界観を作りこむのはPV制作と同時というか、この時点では世界観が無かったんです。キャラクターの印象から映像を作っていただくような流れでした。こちらから提示した資料的なものはほとんどなくて、口頭で打ち合わせただけでしたね。
三浦: そうですね。
シャフト岡田: 写真資料が何点かあったと思うんですけど、今回の楽曲と、楽曲のイメージ、あとはキャラクター原案のカントクさんの琴音のイメージ、ぐらいでした。琴音というキャラクターを掘り下げていくと、やっぱり音楽に行きつきますね。音楽のライブ的なイメージです。あとはいただいた楽曲がアップ系ののれる曲だったんで、その曲調に合わせました。他に奇をてらった映像はたくさんあったので(笑)、ストレートに行きましょうという打ち合わせをしました。

制作過程で印象に残っているエピソードはありますか?

シャフト岡田: たぶん、非常にご迷惑をおかけしたと思います。「プリズムナナ」のPV7本がスタートしていて、シャフト社内でけっこう他の作業もあったので、スタッフの調整でご迷惑をおかけしてしまったんじゃないかなと。
三浦: 一番印象に残ってるのがそこなんですね。
シャフト岡田: やっぱりその辺のやり取りが、どの作品でも一番印象に残るんですよ(笑)どこまで三浦さんがやりたかったイメージの手助けができるか、スタッフの調整も含めて、いろいろありましたね。作り手と制作側の永遠の課題です。作画監督の永作さんにもだいぶ原画を手がけていただきました。止めで決めないといけないカットだとか、変身シーンもでしたっけ?
三浦: そうです。看板や変身シーンは永作です。とにかく大変だったことはよく覚えています(笑)

ステージ上のKOTONEと街の中の琴音の対比が印象的ですが、この見せ方の狙いは?

三浦: 最初はバンドをやっている、という文字の設定しかなくて、それは入れようと思いました。あと琴音は変身して水の魔法を使うということだったので、雨を使ってみようというところです。魔法少女モノという設定だったので、変身した自分をアルター・エゴ的な理想の自分にして、それをファンタジー世界の理想だとすると、もうちょっとリアルな世界ではバンドで活躍している自分というのが理想で、至と飛鳥と一緒にやりたかった、ということです。
シャフト岡田: バンドになると見た目も大人っぽくなりますね。制服姿とバンドの衣装と変身後で3種類の琴音が見られるんです。
三浦: そうですね。性格的には3人の中で一番年下で、ちょっと素直になれないっていう風にしました。これを3人のグループの中で考えたら面白いかなって思ったんです。グループの中の自分の立ち位置を受け入れられない琴音が、最終的にはその立ち位置に落ち着くっていう。最初は気づかなくても、自然とそうなっていくんです。
シャフト岡田: 最初はツンツンしていて子どもっぽいんですよね。
三浦: 世界中から語りかけられてるのに、それを見ないようにしてるんです。
シャフト岡田: そこから変身して、雨があがって、光が差しますよね。
三浦: 自分を受け入れて、落ち着くべきところに落ち着いたという意味付けです。

バンドの演奏シーンもそうですが、3人の絆が強調されているような部分が見られます。

三浦: そうですね。琴音は見ないようにしてたんだけど、結局、至と飛鳥との絆に引っ張られてたんだって気づくんですね。
シャフト岡田: あれはいい表情ですね。最初は子どもっぽかったけど、最後は大人っぽく見えます。
三浦: 最初はツンツンしてるんですけど、それが抜けるので大人っぽく感じるのかもしれませんね。
シャフト岡田: 映像を見て、その成長過程に気づいてもらえると嬉しいですね。

アドトラック、ラッピングバス、ポスターなどの街なかの広告メディアが目立って見えるのは、強いこだわりがあるのでしょうか。

三浦: 自分の趣味なんです。昔のアメリカのアニメが好きなんですけど、その頃のアニメって世界中のものが動いて生きてるんですよね。標識が歩いてしゃべってたりとか、ポスターの中の絵が踊りだしたりとか、もう夢の世界なんです。そういう世界が好きなので、いつかやりたいと思っていました。あと先ほども話した、琴音に向かって世界中のものがこうなれって語りかけてくるのを表現できたら、と考えたんです。心情的に弱ってるときにポップソングを聞いてホロリとするみたいに、普段だったら気にならないことも、ふっと入ってくるときってあるじゃないですか。そういうものが本当に生きて語りかけてきたら、というイメージです。それと、街の設定も何もなかったので、こういうことをやって華やかな雰囲気を出せたらなって思いました。
シャフト岡田: 資料としては原宿の写真を使ったんですよね。
三浦: 参考にしたんですけど、そうはなりませんでした(笑)賑わってる東京のどこかだと思ってください。

ステージ上の飛鳥と至の担当楽器はどのように決まったのですか?

三浦: これは性格の設定ですね。もう飛鳥はドラムしかやらないだろうって。そうしたら残りはベースしかないだろうって。たぶん誰が考えてもベースがキーボードになるぐらいで、こんな感じになると思います。
シャフト岡田: 琴音のギターは決まってますからね。実はカントクさんにも聞いたことがあるのですが、まったく同じ事をおっしゃっていました。特にこちらから指示をしたわけではなくて、三浦さんの印象から決め手いただいた感じです。

ちなみに3人のバンド名は設定されてるんですか?

三浦: 自分の中には無いです(笑)でも岡田さんがすごいのを考えてくれているはずです。
シャフト岡田: 何もないとは言えない雰囲気じゃないですか(笑)
三浦: 何でしたっけ?
シャフト岡田: バンド名は「Dear My Friends」です。
三浦: それ曲のタイトルじゃないですか。長いですよ。
シャフト岡田: でもこれが一番いいと思ったんです。
三浦: ちょっと逃げですよね(笑)

PROFILE
三浦 陽 (演出)
Studio-KIN所属の演出家
「エウレカセブンA0」ほか多くのアニメで演出、絵コンテを手がける

岡田 康弘 (制作プロデューサー)
シャフト所属